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『母のワンピースのファスナー』を上げるのが好きではなかった、幼い頃の僕を見つけた話。

僕が小さい時・・・、

小学校一年生くらいの頃からだったと思う・・・。

母のワンピースの背中のファスナーを上げるのが

僕の仕事だった。

 

僕の母親であるミドリさん(仮名)は

繁華街の有名スナックでホステスとして働いていた。

 

ミドリさんは毎日、

夕方になると家の居間にあった

大きな合わせ鏡の鏡台の前に座って化粧を始める。

念入りに・・・・30分以上かけて化粧をする・・・。

 

僕はその時テレビを観たり、時間を弄んでゴロゴロしたりしながら

母親の傍で過ごしていた。

メイクは子供の僕が見ても派手なメイクで

お白いがしっかりと塗られ、

青いアイシャドーが塗られ・・・、

マスカラが塗られ・・・・次々と化粧が上塗りされていく。

パーマの髪もカーラーで巻かれ、ドライヤーで整えられる。

 

最後に真っ赤な口紅がたっぷり、

ミドリさんの厚めの唇に塗られる。

大人の女性の化粧に対して

特に何の感想も持たなかった当時の僕が

唯一感じていたのが、

むせ返る様な化粧の匂いの強烈な存在感・・・、

まだ知らぬ大人の秘密を象徴するかの様な

その匂いが・・・・子供の僕には不可解で

文字通りむせ返る思いだった。

 

美しい蝶の羽にたっぷりと鱗粉がのっていて

触ると手にベットリとつくので

出来れば触りたくない・・・・そういう感じ。

 

化粧が終わるとミドリさんはワンピースを着て僕に云う。

「背中のファスナーをあげて」と・・・。

僕はその行為があまり好きではなかった。

化粧をして夜の仕事に出かける母親の

ワンピースのファスナーをあげるのが

どうしても好きにはなれなかった。

 

いつも、しかめっ面で

息を止めて

えいやっとファスナーを上げていた。

かと云って、それを口に出す事もなかった。

 

母親を送り出す合図の様なものでもあったので

好きではなかったのかも知れない・・・。

 

今思うと、子供ながらに

母親が母親ではなく、

女になって出かけていく様に感じ取って、

無意識に敬遠していたのかも知れない。

まあ、もちろんホステスの仕事としてだけれど。

そこに嫌悪感を抱いていたのかな・・・?

兎に角、良い気持ちはしなかった。

そのかわり、激しく嫌がる事もなかった。

 

しかし、ミドリさんはそれを僕の仕事にしているのを

気に入っていたのか?

毎日僕に頼むのだった。

もちろん、ワンピースの背中のファスナーを一人であげるのは

大変なので、単に手間を惜しんでいたのもあるだろう。

 

僕がファスナーをあげ終えると母親は支度を終えて

大きめのハンドバッグを小脇に抱えて

「行って来るからね」と云って

たいてい笑顔でいそいそと夜の街へ出かけていった。

 

今となっては他愛もない過去の日常のワンシーンなのだけれど、

当時の僕はどんな風に感じていたのか・・・?

あまりリアルには思い出せない・・・。

でも、母親が夜の繁華街でお酒を呑んで男の人を相手に

仕事をしているのを子供心に理解して

嬉しいとは思ってなかったのは記憶している。

 

普通の家庭がどういうものか?ってのも

よく知らなかったので他人の家と比べた事もなかった。

でも、何となく人に云うのは憚られる事だと捉えていたし、

母親の愛情を強く感じる事もなかったし、

なんだか冷めていた様に思う。

 

そんな幼少期の日々の事をふいに思い出したので、

活字にしてみようと思って書いてみたんだけれど・・・、

書いてて、

なんだか当時の自分がいじらしくなってしまった(笑)

可哀想なカーミー少年・・・?(笑)

 

もしもタイムスリップ出来るなら

当時のカーミー少年に何かしら声をかけてやったり

話を聞いてやったり

一緒に遊んでやったり

いろんな面白い事を教えてやりたいなって思う。

そしたら、当時の僕はもっと当時をエンジョイしたかもしれない(笑)

・・・もう叶わないけれど。

 

こうやって活字にしてみて・・・、

確信したのが、

やっぱり、

母親に一緒にいて欲しかったんだろうな・・・・?

という事。

僕は自分で、子供の頃の愛情は足りていたつもりだったけれど、

そうではなかったんだな・・・って事に気付いた。

足りていた・・・・、と自分に言い聞かせていただけだった様だ。

 

だからこの歳になってもまだ甘えが抜けないのだろう(笑)

こうやって過去の自分を活字にして振り返るのって

面白いな。

いろんな事が分かる。

 

過去の自分を理解して、

過去の自分を、自分が認めてあげる事で

今の自分と、そこから先の未来の自分を

変える事が出来るって聞いた。

まさにそうだ。

 

決して、過去が変えられるわけではない。

過去の自分を正しく知って、

過去の自分を認めてやったり、

肯定してやる事は出来る。

 

そうする事で、

自分の心の中にある過去の記憶の中で、

実はずっと泣いたままだった小さな自分が報われたり

救われたりするんだ・・・ってのが

なんとなく分かった。

 

毎日ミドリさんのワンピースの背中のファスナーを

しかめっ面で息を止めて上げていた

カーミー少年は

今日、随分未来のおっさんになった自分に肯定されて

とても嬉しそうだ・・・・。

時々エッセイを書いてます。よければ他のも読んでやって下さい。

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