初めて江戸川乱歩さんの作品を読んだのは小学生の時だったろうか・・・。
なんだか古めかしい世界観が鼻について妙にとっつきにくかった記憶がある。当時は結局ハマる事もなく、1、2冊読んだ程度だった様な気がする。
時を経て同氏の作品「パノラマ島奇譚」を読む必要に迫られた。
それと云うのも次回のライヴで書家の友人のYさんとうちのバンドでコラボしようと云う話になって、テーマとしてYさんが迷う事なく持ち出してきたのが「パノラマ島奇譚」だった。
Yさんは男性にも女性にもモテる楽しい人物で、音楽もこなすし書家でもあるというとても器用な人物。独特の世界観ももっていて江戸川乱歩さんの作品は彼の愛読書らしい。
そのY氏に勧められたのと、次回のコラボライヴのテーマとなれば読まないわけにはいかない!とさっそく検索して探してみるとKindleで無料で読める事が判ったので、ダウンロードして読み始めた。
率直な感想としては・・・、単純に面白かった。最初から最後まで全く飽きる事なく読める名作には違いない。
小学生の時は今一つ楽しみきれなかったのだけれど、酸いも甘いも噛み分けた立派なおっさんとなった今ならこの独特の江戸川乱歩ワールドはなんとも言えない匂いを放つ癖になる世界だ。
食べ物に例えるならば納豆やアボカドの様な癖があってとっつきにくいけど一度気に入ってしまうと、もう忘れられなくなる様な、そして他では換えの効かない・・・そんな食べ物に似てると思う。
どこにでも居る様な特に目立ったところのない主人公がひょんな出来事から一大決心をして自分の野望の島を作り上げるという、どうしたらこんなストーリーを思いつくんだろう?という様なストーリーだけれど・・・、
よくもまあ、これだけの荒唐無稽な物語をあんなにも生々しいリアルな描写で表現できたもんだ・・・・と感心せざるを得ない。
普通の文章力ならおそらく早々に投げ出してしまうだろうし、書き上げたとしても読者からすると空々しく稚拙なものになるのだろう。
しかし、そこは流石の文豪だ。
江戸川乱歩さんの文章は、荒唐無稽な物語をありありとリアルに描写しきっていて今読んでも稚拙な感じなど微塵もなく、あり得ない様な物語と世界が生き生きと描かれ、登場人物はありありとリアリティと生身に人間の体温をもって表現されていた。本当にすごい才能だとうならされてしまう・・・。天才だよね。
でも、当時にこんな変態感満載の物語がよく認められたもんだな・・・と感心する。
主人公のつくったパノラマ島の世界はぶっ飛んでいて真面目な人が読むと嫌悪感から読むのをヤメてしまうだろうな・・・という様なアクの強い強烈な変態ワールドだった。
しかしその変態感がどこか正しく真っ直ぐなので正しい変態ワールドとして逆に清々しく感じられ好感が持てた。
誤解の無いように付け加えておくと、僕は変態の趣味もないけれど、こういう世界観は嫌いではなくて最近はむしろ好物かもしてない・・・・(裏を返すと変態の素質があるのかな・・・?笑)
音楽でも美しく綺麗な音楽やカッコいい音楽も大好きだけど、イビツで心をざわつかせるような音楽も好きだ。どちらかと言うとこの作品はそう云う類の音楽に似ているのかもしれないな・・・・。
話は変わるけど、読後にもやもやとパノラマ島の物語を反芻していると・・・、どことなく僕の好きな世界的作家である村上春樹さんの描く世界と通じるところがあるな・・・・と思った。
村上春樹さんの描く世界も荒唐無稽で、よくもこんな現実とも虚構ともつかない世界を行ったり来たりする物語をさも現実の様に表現ができるな・・・といつも感心させられる。
そして、同じく読後はその物語の世界の事を反芻しては物思いに耽ける事があった。そういう部分では本当によく似ているなと思った。
物語の荒唐無稽感では遥かに江戸川乱歩さんの方が上だけれど、現実(そもそも物語だけれど)と虚構の行ったり来たり感と、そのグラデーションの目立たなさは村上春樹さんに軍配があがるだろう。
でも、どちらも癖になる物語で、他に換えが効かない作品である事は間違いなさそう。
これからこの江戸川乱歩さんの世界観をテーマに演奏をしてみようと云う事になっているのだけれど・・・・一体どうなることやら・・・。
でも、落ち着いたらしばらく江戸川乱歩さんの作品を読み漁りたいと思う。
江戸川乱歩を小学生以来読んでない・・・という方には是非一度読んでみてもらいたい。
なんとこんな面白い作品がKindleで無料で読めます。本当に良い時代ですね。